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アテネ・メトロ・ミュージアム展

日本ギリシャ協会からの依頼で、同協会会報誌 Japan-Greece Society第122号(2009年6月発行)に柳田富美子が寄稿したアテネ・メトロ・ミュージアム展(2009年4月7日~5月10日開催)の記事を掲載します。

最近、巷で話題の阿修羅展が開催されている東京国立博物館・平成館は大勢の人でごった返していた。その一階を右側に入った一角にある企画展示室で、「アテネ・メトロ・ミュージアム展」は開催されていた。ギリシャの首都アテネの地下鉄のユニークさを日本で紹介する初の試みだ。
展示会場に一歩足を踏み入れると、そこにはシンプルでスタイリッシュな空間が広がる。いきなり目に飛び込んでくるのは、壁一面に広がるアテネの地下鉄路線図。赤、青、緑の3本の路線には駅名が施され、それらの所々に駅の様子がわかる写真パネルが貼ってある。展示会場の奥ではギリシャの軽快なポピュラー音楽にのせて、アテネ・メトロを紹介するビデオが上映されている。
この展示会は、日本・ギリシャ修好110周年記念事業の一環として、駐日ギリシャ大使館と東京国立博物館が共同で主催し、アテネ・メトロの運営主体であるアッティコ・メトロ社や、日本ギリシャ協会他の後援を得て実現したものだ。

アテネの地下鉄といえば、2004年のアテネオリンピック開催時に大急ぎで間に合わせて建設したという印象があるが、実はアテネに地下鉄が開通したのは1904年で100年以上の歴史を有する。その拡張工事が2000年頃から始められて、徐々に駅が増え、2004年には新国際空港までつながったというのが実際のところだ。もちろん、アテネの地下は全域に古代遺跡が幾重にも広がっているので、どこを掘っても考古学発掘調査の様を呈する。この地下鉄拡張工事では全域7万9千平方メートルで5万点以上の考古遺品が出土したそうだ。


地下鉄改札


駅構内(古代アテネの水道管展示)


駅構内(古代発掘物展示)

駅構内(現代アート展示)

オリンピック開催都市が得る大きなメリットの1つは都市インフラが整備されることだが、アテネの場合もご多分に漏れず、りっぱな地下鉄と新国際空港と高速道路が完成した。中でも地下鉄は、世界の他の都市に類を見ない斬新さとメッセージ性をもっている。まず、工事中に発掘された考古遺品の多くが地下鉄の駅や通路などの公共空間に展示されているだけでなく、発掘の跡そのものが演出の大舞台となっているのだ。たとえば、シンタグマ駅構内。長さ100メートル、高さ6メートルにわたり、地層が垂直に掘り下げられ、その断面がそのまま駅の壁面となっていて、まるで卓越したインテリアのように幻想的だ。そこには2500年前の彫刻鋳造場跡・上下水道や土器・石棺などをはじめ、ローマ時代・ビザンティン時代に至る文化の痕跡を文字通り、まのあたりに見ることができる。アクロポリスのすぐそばにあるアクロポリ駅では青銅器時代以降の住居・墓・風呂などとともに、プラットホームには大きなスケールで美しく広がるパルテノン神殿のフリーズの浮彫の複製。主要6駅構内でこのような考古遺品が展示されている一方で、ギリシャを代表する現代アーティストたちによる数々の絵画・彫刻作品などがほぼすべての地下鉄駅構内を飾っている。ヤニス・モラリスやアレコス・ファシアノスなどの洗練された作品はテーマも素材も様々だが、一言でいうならどの作品もシンプル且つ詩的といえよう。考古遺品が公共空間に美しく展示され、コンテンポラリーアートと融合し、不思議にも両者は共存している。そこには違和感はなく、人間が歳月を超え、紡ぎ、積み重ねていく日常生活や美の追求の果実として、両者はともに位置づけられるかのようにみえる。古代の遺物が単に歴史を検証する物体とみなされて無機質な展示をされるのではなく、息を吹きかけられ、魂を与えられ、歴史を伝えるアートとして都市生活空間の中に存在している。そしてコンテンポラリーアートはそんな歴史を継承するかのように現代の活力あるギリシャの息づかいを感じさせている。
人が「地下鉄に乗る」という日々の生活の一部にさりげなくアートがある。あるいはアートの空間の中に日常生活がある。かしこまって博物館や美術館見学に出かけて行かなくとも、自然な形でアートを、文化を、体験できる空間がそこにはある。
日常生活と歴史とアートの融合。おそらくそれは無意識のうちにも積み上げられていく知的好奇心や自らの文化への誇りとして、後世につながっていく文化遺産なのではなかろうか。

発想が少々飛躍するが、駅構内に商業店舗がたくさんできて賑わう東京と、ミュージアムアートが広がるアテネ。両方とも「駅ナカ」をテーマにした文化だが、その方向性はまったく異なる。商魂とアイデアで駅が賑わい、利便性と楽しさで人々の心を満たすのも文化。人々が行き交う駅を知と感性と癒しの空間にして心を満たすのも文化。対比してみるのも興味深い。<BR>
最後に、これからギリシャ・アテネを訪問される方には、現地での地下鉄駅めぐりをスケジュールに組み込むことをお薦めしたい。今回の東京国立博物館の展示ではアテネ・メトロが写真パネルと映像資料で紹介され、すばらしいそのコンセプトを広く知ってもらう機会を提供したが、実際にその空間の中に自ら入ってアテネ・メトロ・ミュージアムを体感し鑑賞することは、実に貴重な体験になるであろう。
発想が少々飛躍するが、駅構内に商業店舗がたくさんできて賑わう東京と、ミュージアムアートが広がるアテネ。両方とも「駅ナカ」をテーマにした文化だが、その方向性はまったく異なる。商魂とアイデアで駅が賑わい、利便性と楽しさで人々の心を満たすのも文化。人々が行き交う駅を知と感性と癒しの空間にして心を満たすのも文化。対比してみるのも興味深い。

最後に、これからギリシャ・アテネを訪問される方には、現地での地下鉄駅めぐりをスケジュールに組み込むことをお薦めしたい。今回の東京国立博物館の展示ではアテネ・メトロが写真パネルと映像資料で紹介され、すばらしいそのコンセプトを広く知ってもらう機会を提供したが、実際にその空間の中に自ら入ってアテネ・メトロ・ミュージアムを体感し鑑賞することは、実に貴重な体験になるであろう。

       


 日本ギリシャ協会会報誌 Japan-Greece Society第122号より転載
 ※再転載はお断りします。




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